きょうはタイトルの通り、企業における経営理念の存在や理念経営の重要性について私なりの考えをまとめていこうと思います。今回は長文です。
歯科医院を経営する上で大切なことは、なんでしょうか。治療技術?設備?人柄?ワクワク感?どれも重要だと思います。
私が一番重要視している点は、「私たちは歯科を通じて何をしたいのか」という考え方です。ようは哲学的な部分ですね。
仕事に対して求めるものが変化し、職業選択の自由が拡大し、労働市場での人材流動性も拡大しています。
そんな中、歯科医院を取り巻く環境も厳しくなっており、生き残り合戦になっている状態です。
そういう機会こそ、いち歯科医院ではなく、いち企業として認めてもらうために、理念について一度、整理してみてはいかがでしょうか。
①経営理念とは
世の中にはいろいろな言葉が混同されて使用されています。「理念」「ビジョン(Vision)」「コアパーパス(core purpose)」「ミッション(Mission)」「バリュー(Value)」など、書きだすと枚挙に遑がありません。それぞれの意味を正確に理解し、使用している人は数少ないのではないでしょうか。私が理解している言葉の定義でも、実は微妙にニュアンスが異なるかもしれません。しかし、いろいろな書籍を読み解いていると、大まかに言えることは、
「理念」:創業者の思いや行動を言語化したもの、企業の切羽詰まった時に立ち返る場所
「ミッション」:企業の目指すべき方向性、指針
「バリュー」「パーパス」:理念やミッションを達成するためにどのように行動していくか、何を目標にしていくか
だと思います。
シドニーでコンサルティング会社を運営しているグラハムらによると、
「ビジョン・ステートメント(理念)」は会社がこの先数年の間にどんな組織になりたいか」と定義しています。普通は経営層が日常業務活動を超えた視点で、明確かつ覚えやすいような形にまとめ上げることが重要です。また「ミッション」は会社に関わる(そして関わらないかもしれない)ビジネスを現在と将来において説明するものである。これは、マネジメントとスタッフに対して定めるべきでしょう。「バリュー」は望ましい企業文化を説明するものである。これは勤務するスタッフ全員(もちろん経営者も含める)の行動する指針となります。と述べています。『参考文献”ビジョン、ミッション、バリューとはどう違うのか Your Company’s Purpose is Not Its Vision, Mission, or Values.” Graham Kenny HBR.org September,2014 』
またパナソニック(松下電器)創業者で有名な松下幸之助は以下のように述べています。
「経営理念というものは、単に紙に書かれた文章であっては何もならない のであって、それが一人ひとりの血肉となって、はじめて生かされてくるのである。だからありとあらゆる機会にくり返しくり返し訴えなければならない。そしてまた、それは単に理念を説くということでなく、実際の日々の仕事において、経営者としては言うべきを言い、正すべきを正していかなくてはいけない。」『参考文献:松下幸之助「実践経営哲学」』
そして、経営大学院の授業では、以下のように述べています。
経営理念は、企業の存在意義や、使命を普遍的な形で表した基本的価値観である。経営理念を通じて、経営者は「会社や組織は何のために存在するのか、経営をどういう目的で、どういう形で行うか」といった基本的な感が肩をステークホルダーに知らしめ、従業員に対しての行動や判断の指針を与える。そうした価値観に対して従業員の共感が得られれば、企業内の求心力が高まり、働くインセンティブにも繋がる。経営理念は企業文化の形成に置いても重要な役割を果たす。
経営理念は行動規範や成功の条件、経営姿勢、企業の存在価値などさまざまな形で表現されるが、一般的には時代の流れを超えた長期的な視点で、社会と従業員に関する考えを語ったものが多い。
これに対し、ビジョンやミッション、パーパスは、経営理念で規定された経営姿勢や存在意義に基づき、ある時点までに「こうなっていたい」と考える到達点、つまり自社が目指す中間的なイメージを投資家や従業員や社会全体に向けて示したものである。『参考文献:MBAマネジメントブック』
したがって、全社として事業のあり方の指針や方向性を示す言葉として経営理念は存在し、創業者の想いや行動を具現化したものと考えてよさそうです。
しかし、理念だけでは従業員は動きません。作るだけでは不十分です。理念を経営層から従業員まで浸透させてこそ、企業における社会的価値創造が可能になります。そのためには、組織のリーダー(経営層)がどれだけ理念を体現し、実践、行動しているかが重要になります。(口だけはダメってことですね笑)
理念は基本的に普遍の存在です。その見せ方、解釈の仕方は時代と共に変化していく必要があります。古い解釈に盲目的に従うことで、事業が衰退し、社会的価値を生み出すことができなくなるリスクもあるからです。
②経営者の仕事は理念に基づいた行動をし、パーパスを提唱、実現すること
上記した通り、パーパスとは、事業目標とは異なるより企業の根源的な概念です。事業ごとに解釈が変わるわけでなく、すべての従業員がこなす仕事において適応される概念です。従業員に企業の方向性を知ってもらう、この企業が何のために存在しているか、あなたは何のために仕事をしているか、あなたはなぜ働いているのかを明確化するために必要です。人間、目的意識がないと惰性が働き、最大限のパフォーマンスが発揮できません。
パーパスを定義するとあらゆる判断基準が明確になります。パーパスは企業と従業員が結ぶ労働契約の原点です。採用判断の第一基準に活用することができます。また人事評価や、教育にも使用することが可能です。そのパーパス(もちろん企業理念やミッションも含む)に賛同できる社員は優遇されるし、同じ方向を向いて仕事ができる。しかし、基本的な価値観に賛同できない人に入社してもらってもその企業での活躍は期待できません。特に新卒採用の場合、その時点での能力を正確に把握することは困難です。多くの場合、学歴や職務歴、コミュニケーション能力などを判断し、採用に結びつきます。そこで企業にとって長期的に貢献してくれる人材かは誰にも判断できません。いまだにたくさんの日本企業は新卒一括採用に頼っています。
新しく従業員を採用する際に、気をつけるべきポイントとして、世界中の難病患者を救うブロックパスター(超大型医薬品)を次々と生み出している、アムジェン(Amgen)社のゴードン・バインダー(アムジェン 元CEO)は以下のことを述べています。
「志願者を面接する時、よく彼らに言いました。『我々の価値観を声に出して読んでみて、それがあなたの個人的な価値観に合わなければ、この会社で働くべきではない。ここで働いても幸福になれないし、会社のためにもならない。アムジェンで働く人生がどのようなものであるか、アムジェンの価 値観は反映しているのです』」参考文献:「世界最高のバイオテク企業」ゴードン・バインダー(アムジェン 元CEO)
仕事に対する基本的な価値観は、採用後も一致しているかは判別すべきです。そこからずれている人に入社されると、採用する側も働く側も幸せになりません。
また、パーパスは(経営理念やミッションも同様に)採用だけでなく、商品開発や新規事業立ち上げの際などの重要な基準になります。例えば、ネスカフェゴールドブレンドで有名なネスレは、「生活の質を高め、さらに健康な未来づくりに貢献します」というパーパスを掲げています。そのパーパスに基づいて様々な商品開発や事業展開を行なっているそうです。ネスレ日本、代表取締役社長兼CEOの高岡浩三は以下のように述べています。
「生活の質を高める」というパーパスは、必ずしもネスレの商品を通じて実現することではありません。安定的な賃金をもらえることにより生活が豊かになるだけでなく、労働を通じて社会に貢献したいと考える人たちはたくさんいますし、仕事続けられる環境を整えることで従業員の心身の健康にも貢献できます。そして、日本社会が抱える高齢者の健康問題という、重大な課題の解決につながると考えています。企業のパーパスを突き詰めると、社会問題を戦略とし、それが企業の目的になるでしょう。しかし、私たちは慈善団体ではなく、営利を追求する団体です。株主から預かったお金を投資する限り必ずリターンを追わなければいけません。すなわち社会問題の解決が企業戦略に直結する必要があるのです。それを企業戦略を定義し、あるべき姿を描くのはまぎれもない、経営者の役割です。そのために、私を含めた各地域や国の代表、経営トップが中心となってまとめあげた方針を徹底的に浸透させる。そこに特別なことはなく、それぞれが経営者として当たり前の役割を果たしているにすぎません。参考文献:ハーバードビジネスレビュー『ステークホルダーと共に共通価値を想像する Management is about envisioning the company’s purpose and realizing it through creating shared value:Kozho Takaoka HBR.org March,2019 』
経営者の仕事は、営業や現場で働くことではなく、従業員の生活基盤を安定させ、満足度を向上し、相対的なサービスの質をあげ、最終的に社会問題を解決することです。利益をあげることだけが経営者の仕事ではありません。そのために、理念やミッション、パーパスの共有がとても重要になります。経営者が従業員のお手本となるよう、常日頃の行動に気をつけなければいけませんね。
③ミレニアル世代、Z世代は志とパーパスの合致をより重要視する。
労働に対して相応の対価を支払うのは企業として当然でしょう。それはだれしもが納得すると思います。米国のように、給料こそが自分の評価だと考える国と同じ土俵で語ることはできません。しかし、いくら仕事に求めるものが給料だけではないと言っても、実態と剥離しすぎているのではないでしょうか。バブル崩壊以降、大卒者の平均年収はほとんど上昇していません。https://www.manegy.com/news/detail/1228
それは医療従事者も同じ状況です。https://www.jda.or.jp/dental_data/pdf/chapter_03.pdf
デフレによって感覚がマヒしていますが、日本の年収レベルは先進国の中ではけっして高いとは言えないと思います。コロナショックでGDPがさらに下がり、消費税10%の負担が重くのしかかり、国民年金も支給されるかわからないという状況下で、従業員の賃金も昔の水準のままでいいはずがありません。その影響をモロにうけているのがミレニアル世代、Z世代です。ミレニアル世代とは、以下のような世代です。
《millennialは、千年紀の、の意》米国で、2000年代に成人あるいは社会人になる世代。1980年代から2000年代初頭までに生まれた人をいうことが多く、ベビーブーマーの子世代にあたるY世代やデジタルネイティブと呼ばれる世代と重なる。インターネットが普及した環境で育った最初の世代で、情報リテラシーに優れ、自己中心的であるが、他者の多様な価値観を受け入れ、仲間とのつながりを大切にする傾向があるとされる。M世代。新世紀世代。ミレニアルズ。出典:小学館デジタル大辞泉
またZ世代とは、以下のような世代です。
ジェネレーションZ、Z世代とは、アメリカ合衆国などにおいて概ね1990年代中盤以降に生まれた世代のことである。カナダ統計局の場合には1993年生まれ以降を、アメリカ心理学会の場合には1997年生まれ以降を指すなど、定義は厳密に決められているわけではない。出典:Wikipedia
ミレニアル世代とZ世代はほど同義語と考えてよさそうですね。私はギリギリZ世代ではないようです。この世代は当然、自分の将来に経済的な不安を抱き、現在の待遇に不満を抱えることでしょう。一方で、若い世代ほど、自分の志と企業の存在意義が合致することを大切にし、組織の中で活躍すると言われています。(出典:How to design your organization’s raison d’etre:Kunitake sato,HBR.org March,2019)
時代によって仕事に求めることや働き方は当然異なります。また幸せの定義も異なるでしょう。いままでのようにモーレツに働けば明るい未来が待っているわけではありません。Z世代はより長い目で自分の人生を考えているので、ワークライフバランスを重視することも、仕事で通じて何を実現したいかを大切にすることも、時代の流れで当然だと思います。
したがって、企業の採用活動を行う際も、社員との価値観が一致しているかどうかを真剣に見極め考えるべきです。
現場で一番困るのは、仕事では何の成果もあげれないのに、学生時代に学んだ価値観を元に行動している変化できない人間です。そういう人間が10人いようが100人いようが価値の想像はできません。
価値観が一致し、組織として団結していないとあらたな創造はできないのです。
④理念経営を実行するために、経営戦略構造構築は必須事項
価値観が同じ人材を採用したあと、きちんと同じ価値観を持って仕事をつづけているかどうかを評価しつづける必要があります。
適切な人事制度や組織構造が必須になるわけです。
そのためにはどのような構造にするかを考えないといけません。
どのような構造にするかを考えるためには、戦略を考えなければいけません。
したがって、理念経営を実行するためには、すべての背策を大まかに検討する力が必要となります。
経営者って大変ですね!
この実行するためのルールを経営大学院で勉強しているわけです。この記事では一部のみを記載しましたが、今後、小分けにして情報提供していきますので、気長にお待ちください!笑
長文お付き合いいただきありがとうございました!今回はこれで終了です!